英国留学記録

5年間イギリスに留学していました。主にその記録と英語勉強法を書いてます。

文系大学院のリーディングの分量の検証

僕が以前在籍した英語圏での修士課程で必ず読め言われていたのは平均で一週間に論文6本でした。

 

各論文の分量はだいたい20-30ページ前後かと思います。この他に追加で毎週20本の論文から2,3本選び読むように勧められていました。

週の合計授業時間は7時間であって、それ以外は一日中ほぼずっとリーディングをしていました。一日に重めの論文を一本読む、というのが基本的な流れでした。

 

なんでこんな記事を書くかというと、たまにブログや体験記で、「毎週10冊近い本を読む必要があってほんとにもう大変でした!」などという記事をネットで目にすることがあり、それは間違いではないかと思ったからです。

 

まず一週間で学術書を丸まる10冊読んでこいなんて事はネイティブでも不可能です。正確にはおそらく各本の一章約2、30ページだけを読めという事だろうと思います。

必須リーディングと、出来たら読めというRecommended Readingを区別つけてないのかもしれません。

 

たまたま米国の文系大学院で実際に教えている教授が生徒たちに課すリーディングの量を話している記事を見つけたので紹介しようと思います。昨日書いたトゥキディデス「戦史」を読む(その1)という記事で名前を出した、米国海軍大学のジェームス・ホームズ教授がトゥキディデスを大学院で教える理由を語ったこの記事で以下のように話しています。

 

「(第二次大戦時に海軍制服軍人の最高位であった合衆国艦隊司令長官兼海軍作戦部長アーネスト・キングは1932年、当時44歳で海軍大学校高級過程で学んでいた時に)一週間で本一冊に相当する分量のリーディングを行った。現在の生徒たちも同等の事を行うべきだ。

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もし生徒たちが一週間に一冊に相当するリーディングを行わない場合、それは彼らが十分な教育を受けていないことを意味する。

ジョージタウン大学、コロンビア大学、SIAS、フレッチャースクールの大学院修士課程で戦略や安全保障を学ぶ背広組の国家安全保障のプロフェッショナルや軍からそこに派遣された学生たちは一週間に一冊程度のリーディングや論文執筆をおこなえる能力がある。」

 

ジョージタウンタウン大学、SIAS、フレッチャー、ジョージワシントン大学アメリカの国際関係分野での名門です。これらで実際に学んでいる方々にリーディング負担を聞いたことがありますが、大体毎週200ページ、きつい時で本一冊分ほど一週間に読まされるようです。

 

次に検証として、KCL戦争学部のシラバスを読んで一週間のリーディングがどれくらいか見てみようと思います。

ここでは「東アジアの安全保障」という修士課程の授業を見てみましょう。KCLでは各学期に3つの授業を取る仕組みなので単純にこの授業のリーディングの三倍の勉強量だと考えられます。「論文1本=学術書の中の1章分」くらいの負担量と考えてください。以下がこの授業の必須リーディング分量です。

 

第1週

論文1本

本3章

 

第2週

論文3本

本5章

 

第3週

論文1本

本5章

 

第4週

論文2本

本3章

 

第5週

論文2本

本1章

 

という事は、一つの授業につき毎週論文5本ほど読む事を要求されるみたいですね。これに加えて読むのおススメと言うRecommended Readingとadditional readingがそれぞれ毎週10本くらいあるが、これは正直関連文献として学生のリサーチやテスト勉強時の助けとして紹介されている意味合いが強いです。その時の授業までに読んでこなくても問題ありません。

このような授業を一学期に3つ取るので×3として、合計で毎週論文15本ほどの必須リーディングを要求されるわけですね。論文平均で25ページとすると400ページで、約本1冊分にあたります。毎日英語で論文2本、というのはかなりつらいと思います。

国際関係学や国際政治分野で修士課程に留学される日本人の方は大体が初めての留学、または学部時に一年間交換留学を経験済みだと思います。おそらくかなり限界に近い勉強量になると思います。

留学中にどれくらい英語が伸びたかの記録

留学して何年でどれくらい英語が伸びたのか書いていきます。それだけですので興味ない人は飛ばしてください。 

 

 

まず留学前の自分の英語の実力を。

九州の田舎町で高校卒業まで育つ。外国人は周りにはゼロでした。

中学からで英語を開始。落ちこぼれであり、高校受験では依然として苦手科目でした。

高校では全科目総合で学年でも最下位に近かったのですが、高2の初めにせめて英語だけでも得意科目にしようと思い猛勉強開始。大学受験時には一番の得意科目に。

国立大学に進学。

入学後にやはり海外大学に行きたいと思いTOEFL受験。大学受験とはレベルが違うと実感しました。点数は68点。

大学入学半年後に英語圏の大学に転校。

 

留学1年目

ファウンデーションコース(大学準備課程)で他の留学生たちと学ぶ。現地のネイティブの英語は本当に全く分からなかったのだがそれよりも絶望したのは自分と同い年の他国からの留学生がみな流暢な英語を話していたこと。初日からみんな冗談とか言ったりして和気あいあいとしているのだが自分は何も話せないしそもそも先生や同級生が言っている事の一つも分かりません。

最初の英語の授業で二人一組になって2分間自己紹介しろと言われ、同じく英語の不自由な韓国人とペアに、「Where are you from?」とお互いに言って年齢を聞いた後はつらい沈黙の2分間。ほんとに何も話せませんでした。

留学二か月後のIELTSではOverall 6.5獲得。

 

三か月で先生の外国人向けのゆーっくりした英語は聞き取れるように。しかしその先生が他の留学生やネイティブの人たちに話し始めた途端理解不能

留学開始から半年後のIELTSでOverall 8.0取得。

しかしニュースキャスターの話している英語は処理速度が追い付かず理解が5割以下。スタバの店員の英語はもっと分かりません。

授業中などは恥や屈辱的なことの連続。3人1組であるテーマを10分間話し合ってそのあと発表するということが授業中にあり、僕の他の二人は開始10秒で僕が彼らの英語を全く理解できないと悟ると、その後の9分50秒は僕の方を見向きもすることなく二人で議論していました。

こんな事が毎日あり、英語が出来ないと対等に接してすら貰えないと強く感じました。無関心というのがより正確な表現だと思います。英語が話せないアジア人男性というのは話しかける動機に乏しいです。考えてみれば、話しても何も通じず冗談1つ言えない奴にかまってあげたり仲間に入れてあげる人たちってのはよほどのお人よしかもしれません。この様な対応は当然なのですが当時の僕にとってはなかなか辛かった。

 

また英語のリーディングを鍛えるためにThe Economicstを読んでみました。精読して分からない単語を全て英英辞典で調べるという勉強をしてみると、1ページに4時間かかってしまった。これを留学1年目の終わりまで毎日4-5時間ほど続ける。

 

留学2年目

映画は全く分かりません。最初の週に留学生たちとジェームズボンドの最新の映画を見ても話の筋もわからないのであまり面白くない。

ネイティブが僕に向けてすごく手加減して話す英語は8割くらいわかるよう。マレーシアやシンガポールから来た留学生の英語はほぼ分かるようになりました。

しかし同年代のネイティブ人同士が普通に話す英語はほぼ理解不能。今も覚えているのが、留学2年目の終わりごろバスの前の席に座った現地学生の英語を真後ろで必死に聞いていた時の事。おそらく英語だなーということが音から分かりますが、意味は全く分かりませんでした。

授業の課題リーディングでは1本30ページの論文をしっかり理解して分からない単語を調べていると、その1本を消化するだけで土日がつぶれてしまいました。多分1本につき15時間くらいかかっていました。単語力や読解力向上の為に知らない単語や表現を全て調べていましたが、これでは肝心の学問の方で落ちこぼれてしまうと悟りました。

また普段から読む新聞やネットでのニュース等は全て英語に変更。Wikipediaも英語で読むようにしました。これらは現在までも続けています。ただ当時はニューヨークタイムズ等の記事は辞書が無いと太刀打ちできませんでした。各行に知らない単語が続出しました。

ライティングは3000字のエッセイを書くのが本当につらく、思ったことが英語では全く表現できません。今から考えると、これまでに読み込んだ英語の量が圧倒的に不足していたのが原因だと思います。

 

留学3年目

英語力の伸びを少しずつ感じ始める。一番大きかったのが朝晩食事付きのほぼ現地人だけの寮に住んだこと。ハリーポッターで寮生たちが一緒にご飯食べるシーンがありますが毎日あんな感じのテーブルに皆座り、仲良くなった現地の寮の友達達と毎日晩御飯のテーブルで1、2時間程会話をしていました。95%程は意味も分からず黙って聞いていただけですが。

こんな生活を半年ほど続けるうちに最初は理解不能だった現地の若者がお互いに会話する時に使う手加減なしの英語がほんの少しずつだけれど分かるようになっていきました。しかしこれはいつも話している仲のいい人たちの英語に限った話です。

ネイティブ2-3人と自分という状況で会話していると、彼らの言っていることを精一杯理解しようとしていて、何か言いたいことを考えていると会話は数秒後にははるか先に行ってしまっていることが多かったです。たまに自分から一言や二言何か言う、というような情けない状況が続きました。

 

同時に初めてネイティブの大人向けの小説に挑戦しました。John le Carreという有名小説家の「A Delicate Truth」というもので、第一ページで知らない単語が続出する。これも知らない単語は全て英英辞典で調べるという方法を行い2ページに約1時間消費するが夏休み全て使って読破。

 

留学4年目

遂にネイティブ人同士が話す砕けた会話が時々理解できるように。この一年は三年目仲良くなった人たちと暮らしていて毎日会話して暮らしていたのが大きかったです。お酒を飲んだりリビングでくだらない話をしていたのが実は一番英語力、特に会話力とリスニング力の伸びに貢献しました。

 

ディスカッションでネイティブが複雑な事や学術的な事を爆速でまくしたてるのはまだ理解できません。また、普通のディスカッション中に流れを追うのは出来るのですがそれを聞きながら批判的に考える、速攻で反論を考えて長文で言い返す、等といった事は出来ません。

 

5年目

ネイティブ同士の会話が多くの場合分かるようになり、会話に入っていけるように。ただし積極的に話をリードするわけではなく、たまに自分からも発言するくらいです。

何か言いたいときに頭の中で英文を組み立てるという作業はあまり必要なくなり、何か言いたいことは自然に英語で浮かぶようもなりました。ある程度複雑な文章も英語で考え、自分で話しながらその先に言うことを頭で考えるという日本語でやっている事が出来るようになってきました。

 

英語力を証明する必要がありTOEICを受け、何とか990点を取りました。

 

6年目

ニューヨークの研究所で一年間インターンする機会を頂き仕事の場の英語を覚え始める。

自分の書いた英語を添削してもらうと不自然な表現だ、こうは言わない、等と散々言われる毎日で、いまだに正しいネイティブらしい英語は全く書けません。

また毎日4時間ほどニューヨークタイムズ紙、ワシントンポスト紙、エコノミスト紙、その他数紙を読んで幾つかの記事を要約するという仕事をやってました。読むスピードがここでも少し上がりました。

 

映画やコメディーで早口なところはたまに分からないところもあるが、大体字幕なしで楽しめるようになりました。例として、BBCのシャーロックは細かいところ以外は分かります。ただ主演の英語はめっちゃ速いのでもし分からなくても気にする必要はないと思います。イギリス人も普通はあんなに早く話しません。あれは役柄としてあのように話してる所もあります。

ニュースなどは日本語を聞いてるのと大体同じ感覚でわかると思います。

5年前に精読で1ページに4時間ほどかかっていたThe Economicstは今では同じ方法で1ページ8分くらい。知らない単語を無視して読めばゆっくりで約3分。ちなみに本格的な小説はまだまだ難しく、各ページに知らない単語は続出します。ダン・ブラウンのロストシンボルは知らない単語を全て飛ばして速読しても16時間かかりました。

 

 

皆の想像する英語がペラペラ、というのはネイティブの手加減なしの英語を理解しある程度の速度でまとまった量の英語を話す、という事だと思ういます。となると1、2年でそこまで達するのは難しいと思います。

僕は6年目辺りで少しずつその様な事が出来るようになってきたかもしれないという気持ちが芽生えてきました。ですがそれでも毎日力不足を実感します。

 

英語が出来ると自信を持って言えるレベルにはまだ全然達していないと思います。書くときなどは冠詞の有無などいつも悩み、自分の表現が自然かどうかもわかりません。その都度ネットで類似の英文を検索して確認しています。