英国留学記録

5年間イギリスに留学していました。主にその記録と英語勉強法を書いてます。

留学先でも「英語で勉強」するのではなく「英語を勉強」する必要がある

この投稿の主張は

数年後にネイティブ同士の会話を聞いて理解し、ニューヨークタイムズなどの高級紙を読みこなし、しっかりとした英語をある程度の速度で正しい発音で話せるようになるためには留学先で”英語で勉強”するだけでは多くの場合十分ではなく、英語力を伸ばすための勉強を別でする必要がある。

という事です。

 

まず「英語を勉強する」と「英語で勉強する」がそれぞれが何を意味するのか。

1つ目の「英語を勉強する」は単純に「英語力を伸ばす事を目的に勉強をする」事を意味すると考えます。

2つ目の「英語で勉強する」について。これは「英語力向上を主な目的でなく英語を介して経済学、心理学、ビジネスなどを勉強する」事だと思います。単に「英語で○○を勉強する」と書きます。

 

大きな問題だと考えているのは、多くの人が留学先で「英語で〇〇を勉強」してさえいれば自然と英語力も伸びると考えている事です。もちろん日本にいる時より英語が出来るようになりたいのであればたぶん達成されます。教授の話を英語で聞いて英語の教科書を読み英語でエッセイを書き、他の非ネイティブの留学生たちと日常的に英語で会話するといった経験は必然的にするはずです。

しかし、それ以上どの様な体験をし、自分で勉強するかは自分の行動力や意思にかかってきます。留学先で「英語力を伸ばす」という目標を忘れ受け身で授業を受ける日々を繰り返していると、そこそこの偏った英語力しかつかない気がします。

 

とりあえず最初に

イギリスでの5年間での自分や他の日本からの正規留学生の友人の経験、毎年出会った交換留学生や大学院生の方々から実際に聞いたことを踏まえて、留学先で授業を真面目に受けている日本人留学生が達する大体の最低限の英語力を〇×で以下に列挙してみようと思います。

 

リスニング

TOEICで話されるようなゆっくりした英語や教授の話す英語、他の留学生の話す英語が分かる。

:ネイティブと一対一の会話が成り立つ。

:ネイティブ同士が数人で話すスラング満載の会話を理解する。

×:映画を字幕なしで全て理解できる。

 

スピーキング

:生活する為に必要な最低限のスピーキング力が付く。短い文でなら自分の感情を表現できる。

×:長い英文を正しい発音でよどみなく正確にネイティブに近い速度で話す。

×:ネイティブ数人と談笑していても間髪入れずどんどん話に入っていける。

 

リーディング

:英語で書かれた自分の専門分野の教科書がそこまで苦も無く読めるようになる。

:硬めの新聞記事などをすらすら読む。

×:ネイティブ向けの本格小説を辞書なしで苦労なく楽しむ。

 

ライティング

:授業で提出を命じられるようなエッセイを英語で書ける。自分の専攻分野での学術的な英語を書くことが最低限出来るようになる。

×:文法的に間違いのない英文を書けるようになる。

×:思ったことを英語で自由に表現できるよになる。日記を正確に書ける。

 

 

各項目4技能で上のようになると自分が考える理由が以下です。

 

リスニング&スピーキング

1.授業が忙し過ぎて英語を使う時間、体力が無い。

留学中の自分の時間の7、8割ほどはリーディングなどの課題に費やされることになると考えています。長期留学が初めての日本人にとって、留学先のリーディングや課題の量は到底こなせる量ではありません。授業に忙殺され毎日深夜まで図書館か自室で課題に取り組み疲れ果てます。その上で寮や大学のラウンジなどに顔を出したりパーティーに行く等の英語を実践的に使うように努力する時間的、精神的余裕が無いことが結構あります。

また「英語で○○を勉強する」という学業面のやる気が高ければ高い程自習時間が増えます。課題の量は膨大ですのでそれらをすべてこなそうとすると自由時間の全てを自習につぎ込むことになり、誰かと遊びに行ったりバーやパブに行って数時間お酒を飲んでのんびりするといった事をする時間がもったいないと感じるようにもなります。

 

2.そもそもネイティブと日常的に会話する機会が少ない

意外かと思われるかもしれませんが、多くのコースのクラスメートの大半は留学生です。修士課程では特にそうです。先生はネイティブであっても留学生を念頭に置いてある程度分かり易い英語を使ってくれますし、そもそもイギリスでは外国人の教授がとても多いです。

また、英語圏で長期間暮らした経験がない日本人がネイティブが普通に話す英語をはじめから聞き取るのはとても難しいです。留学して数か月から半年くらいして初めてネイティブと一対一の状況で分かるようになると思いますが、これも相手が手加減してくれる時のみです。

このような状況でネイティブ学生と仲良くなるのは難しいです。相手からしても、育った文化が違いテレビとかスポーツとかの文化の話もかみ合わず、自分の話す英語をあまり分かってもらえず、あまり冗談なども言えないし通じない人とわざわざ長時間一緒にいるという動機がそんなにないのだと思います。日本に興味のある方ならこちらに興味を持ってくれると思いますが、そうではない大半の一般の学生と交流する機会を持つことがまず難しく、そんな機会があったとしても頻繁に会って話すような仲のいい友人を作ることが少し難しいです。

またイギリスでは特にそうですが、入学して最初の数週間ほどで作った友人とそれ以後行動するようになります。彼らは基本内気で排他的なのでそれ以後は仲の良いグループに他の友人が加わることは少ないです。ハリーポッターでもハリー、ロン、ハーマイオニーは最初の方に出会ってそれ以後ずっと一緒に居たと思います。

なので留学初めのこちらの英会話力がかなり低い段階ではかれらと会話がほぼ成立せず親しい関係になりづらく、半年たってこちらの英語力が付いた段階では既にグループが成立してるので彼らの輪に入りづらいです。

クラスメートにネイティブがいるからと言って常にネイティブの英語にじかに触れる機会があると考えるのも時期尚早です。これはクラスの規模にもよるので、小規模で毎週皆で授業後にパブに行く様な文化があるところではリスニングとスピーキングを向上させる機会が多いです。逆に数百人もあるコースにいると必ずそのクラス内で出身国や人種などによるグループが形成されます。日本に来ている留学生にもこの傾向がみられると思いますが、留学先でも欧米系、アジア系、アフリカ系、中東系で自然に固まるようになります。そのほかにも、英語が出来る人達同士、英語がそこまで出来ない人達同士でグループが形成される傾向にあると思います。この状況下では、ネイティブと会話する機会が少なくなります。

もちろん寮や学校であいさつする間柄くらいの友人なら絶対出来ると思います。しかし一日や一週間で何時間くらい彼らと会話したかを考えると思いのほか少なくなるのではないでしょうか? 

24時間英語のシャワーを浴びるとの表現がありますが、受け身に生活していると一日の中で英語をほぼ聞いたり話したりしない日すら出てきます。実際に留学した人にも思い出してもらいたいのですが、英語圏で暮らす中で日常でどれだけ英語を使うでしょうか?現地人と一緒に住んでいるのなら毎日使いますが、一人暮らしだとほぼ使用しないと思うのですが。

 

3.ネイティブと多対一で会話する状況がほぼない。

上でネイティブのと会話する機会があまりないと書きましたが、自分の周りが全員アメリカ人やイギリス人の状況になる機会はもっと低いです。先ほど言ったように、母国語や出身地でグループが作られる傾向にあるので、現地人同士の会話に自分が常に混ざっている場面は珍しいと思います。彼らからしても、一人だけ英語の不自由な留学生が混ざっているのは気を使っていちいち面倒かもしれません。

また仮にそういう状況になったとしても最初は1%も理解出来ないかと思われるのでその場にいる事自体がとてもつらいです。自分だけ蚊帳の外のようなに感じるかもしれませんのでそういう場に顔を出すのも嫌になってきます。

僕は4~5人で現地人食事をしに行ったりカフェに行ったりしても、1、2時間いて自分の発言がほぼ無いという状況を経験したことが何十回もあります。特に知り合ってそんな日が経ってなく、その中で知り合いが1人だけで他が初対面の場合に特にそうなりやすいです。そんな時って彼らは僕が話に関心が無いと判断するのかそもそもこちらの存在を忘れるかして、話を振ってくることもほぼないです。もちろん泣きそうにしていれば心配してどうした?といってきてくれるのでしょうが。こういうのは結構精神的にきついです。またパーティー的な場に行って誰も話しかけてこないで一人で端っこで立っているなんてのもきついです。自分以外はすでに結構仲が良くて入れる空気ではないという場合も多々ありました。

多分こんな経験は誰もしたくないと思うのですが、英語力を伸ばす為には避けて通れないと思います。

 

4.卒業するために英語を話せる必要がない。

卒業や好成績取得の為にスラングを多用したネイティブの英語を理解し、しっかりした英語を話せる必要がほぼありません。特にイギリスはエッセイや期末テスト一発で成績が決まる場合がほとんどです。プレゼンで話す機会も少しはありますがそれはこちらからの一方通行ですし、事前に話す内容を決めれます。また僕の留学先の学部ではクラスでのディスカッションや位内での発言は成績に全く関係ありませんでした。

極論を言うと、英会話が全く出来なくても大学や大学院を卒業できます。そもそもイギリスやオーストラリアからしたら英語がうまく話せないアジア人である僕らや中国人はたくさん金を運んできてくれる金づるです。

僕も自分の目で見ましたが、中国からの学生たちって常に自分たちで行動するので留学流に英語を話す機会ってかなり少ないんですね。一度英語がほぼ話せない中国出身の方に会って、留学3年目と聞いてとても驚きました。

 イギリスやアメリカで彼らは大抵卒業していますし、大学側もせっかくのお得意様である彼らが卒業できないような制度を作るはずがないです。したがって僕ら日本人も留学中に、「しっかりと良い成績で卒業するために実用的な会話力を身に着けよう」といった動機が全く発生しません。

 

5.留学するだけでは発音は改善しない。

スポーツ選手で海外に長年住んでいた人などの英語をユーチューブで聞くと同意していただけるかと思います。川崎宗徳選手やイチロー選手も英語の発音を聞くと完全に日本人訛りが入っていると思います。

自分で発音矯正をする努力をしないと発音は改善しないと考えています。そして発音が悪いと英語をある程度の速度で話すことが出来ないし、無理に速度を上げると口ごもって変な英語になり、最悪理解してもらえない場合もあります。

 

リーディング

1.自分の専門外の単語を知らない。

一般的にリーディングは留学で一番成長を感じる能力だと思います。しかしどの分野の記事や本を読む力が上がるかは専攻によって決定されます。また、文学や歴史などの人文系の学問に専攻が近い程リーディング力が付くように思います。大学で課されるリーディングの量と難易度がより高く、新聞を読む時にも活きる語彙がこれらの専攻でよく使われると思うからです。

他にもリーディングの難易度は、その学問のコミュニティー内でどれだけ国際化が進んでいるか、またどれだけ数学や統計を使うかによるのだと思います。僕の学部の専攻は経済学なのですが、経済学は社会科学の中でも特に国際化が進んでいて、その為使われる語彙にかなり限りがあり、表現も非ネイティブがすぐに分かるような簡単なものが好まれる傾向があると思います。僕も周りの留学生も、一年もしないうちに教科書が苦も無く読めるようになりました。しかし安全保障や国際関係学で課されるリーディング、たとえばE.H. カーの「歴史とは何か」やジョン・ミアシャイマーの「大国政治の悲劇」などは3年勉強しでも到底すらすら読めるようにはなりません。


また、学術的な語彙と新聞の語彙は結構離れており、新聞の方がテーマが多岐にわたるので必要語彙が遥かに多いです。多くの分野では新聞を読む必要もほぼ無いので、新聞でよく使われるような語彙を学ぶ機会も少ないです。

 

2.小説は全く歯が立たない。

小説で使われる語彙や表現は学術的な英語とはかけ離れているので、小説を読めるようになるには小説を大量に読み、さらに語彙を大幅に増やす必要があります。日本の大学受験でも早稲田や慶応の英語でたまに小説から長文が出題されると記憶しているのですが、かなり難しいと感じる人が多いと思います。

そもそも英文学専攻の方以外は小説を読む事を求められる機会がほとんどないです。僕の留学の合計5年間で、授業で小説を読む課題が課されたのはたったの一度きりです。ディスカッションの授業で、1930年代の上海を舞台にしたEmpire Made Meという小説を来週までに読んでくる必要があり、難し過ぎて50ページほど読んで諦めました。ちなみに成績には全く関係の無いディスカッションでした。

留学しても小説が読めるようにはならないという記事を過去に書いたのでそちらも参照してください。

kleon.hatenablog.com

 

ライティング

1.(自分の専門分野での)長い英文を書けるようになるだけ。

エッセイでは短くても3千字、卒業論文では1万5千字ほどのものを書くことになるので否が応でも英語を書くことに慣れてきます。ただし、自分から大学のライティングセンターに通ったり、エッセイライティングの本を買って自分で勉強しない限り体系的にライティングを学ぶ機会が限られています。取り敢えず書く事にはなれるがそれ以降の上達は自分の意欲次第です。

 

2.正確に英文を書けるようにはならない。

自分の間違いを直してくれる人がいません。教授たちも英語の間違いは言いたいことが伝われば問題ないというスタンスの人が多いです。僕がこれまで教わってきた教授たちは9割方そう明言していました。そのため自分が気付いていないだけで、自分の書いた英文にかなりの間違いが含まれている事があります。

自分の書く英文が間違っているか逐一仲の良い母国語が英語の学生にチェックしてもらえれば一番ですが、毎回では迷惑ですし自分の成績にもそこまで直結しない場合には面倒になりませんか?

そもそもネイティブが不自然に感じない英語を書くのって本当に難しいと思います。日本語を学んでいる外国人留学生の日本語を見たことがあるでしょうか?僕個人の経験ですが、かなり流暢に日本語を話す外国人学生でも僕たち日本語ネイティブから見たら不自然な表現が多いです。僕らの書く英語も同様にかなり変なものになっている可能性が高いです。僕も英語圏在住6年目であるのですが、ネイティブにチェックしてもらう度に、下手したら一文に一個ほどの間違いがあります。僕の場合は日記などの、より日常的な表現を使う場面であるほどに間違いが多くなります。

 

 

 

以上の理由から、留学して「英語で勉強」して得られる英語力には限りがある気がします。より高い英語力を目標としている場合には、座学と実践を取り入れて自分から努力する必要があると思います。

英語力が伸びないのは留学期間が足りない場合もあります。しかし学部留学で3~4年現地で暮らしていながら、自分から積極的にネイティブと交流したり、新聞を定期的に読んだり、話せる内容を増やす為の単語や表現を暗記するといった努力をしなかったせいで総合的な英語力が低いまま卒業する日本人留学生が多いのも事実です。長く留学していても努力を怠った場合にはそこそこの英語力しか身につかないかもしれません。

しかし留学先での時間には限りがあります。限りある時間を「学問を修める為の勉強」と「英語力を伸ばすための勉強」にどう割り振るかは個人によると思います。

「英語で勉強」しよう、つまり留学先でしっかりと学問を勉強しようと思えば思うほどリスニングとスピーキングを学ぶ機会や、専攻に関係ない単語を覚える時間が減ってしまう事になります。

逆に、しっかりとした会話力を身に着けたり、発音の練習をしたり、授業とは全く関係がないようなリーディングを行う場合には成績が落ちやすくなりますし、最悪の場合授業についていけなくなり卒業も危ぶまれます。

英語力を伸ばすための勉強をしなければいけないとは言っておらず。例えば、博士課程に進むために出来るだけ良い成績が必要な場合は日常会話や小説を読む為の勉強なんてしている時間がもったいないです。他にも留学先の学問を学ぶことが最大の目的の方はずっと図書館で毎日深夜まで勉強するのも正しい選択だと思います。この様な方々が英語のスラングや会話の自然な表現などを覚える事の優先順位が低いと考えているのは正しいことだと思います。

ただ、留学先で「英語で〇〇を勉強」することで自然と英語力が上がると考えている人には僕自身の経験を元にここで忠告しておきたいです。上に書いた通り、留学先で真剣に授業を受け課題をこなしてるだけで身につく英語は偏ってしかも限定的なものとなる可能性が高いからです。それ以上の英語力を身に着けたいと思った場合には自ら弱点を把握し意識的に「英語を勉強」しなければならないです。

 

冒頭で以下の様に言いました。

ネイティブ同士の会話を理解し、高級紙を読みこなし、しっかりとした英語をある程度の速度で正しい発音で話せるようになるためには、「英語で勉強」するだけでは不十分で、英語力を伸ばすための勉強を別でする必要がある。

これらの目標は留学したとしても授業を真剣に受けているだけでは全員が達成できるものでは無いので、その実現の為に何をすべきかを考えて行動する必要が出てきます。学業とのバランスを考えたうえで自分の目指す目標を定め、それを実現するために何を優先し何を犠牲にするのかを判断し、そのうえで留学先で努力する事が大切だと思います。

 

そして最後に一つだけ。実践的英語力の向上というのは数年、数十年かけて達成される長期目標だと思います。しかし自分の目の前にある短期、中期目標を達成することを優先してこの英語力の向上を疎かにしてしまうといつまでたってもある程度以上の英語力が身に付きません。

例えば今回話したのは留学先での勉強の場合において。目の前の課題や来週のテストの事ばかり考えていると単語の発音を調べ、例文を参照し、時間のかかる英英辞典でニュアンスを確認するといった作業を怠りがちです。意味の知らない単語も理解しないでよい場合には辞書で調べる必要もありません。これらの行為は大学を卒業する、より良い成績を取るといった短期目標の為には時間の浪費と言ってよく、逆効果ですらあります。しかし5年後の英語力を考えるとこれらを行った方が間違いなく良いと言えます。

高校での英語や大学受験英語でも同様の事が言えます。テストや受験では英単語の日本語訳や英文の日本語訳が問われるので英日辞典を使い日本語訳を暗記した方が有効です。英英辞典で単語を調べても短期的に見ると理解力が低くなるので数週間後のテストの点数を上げる為には使う意味がないように思われます。また、受験英語で単語の正しい発音を覚えたり自分で正しい発音を発する勉強をする意味はほぼ無いと思われます。

TOEICIでも、もし短期間で劇的に点数を上げたいと思った場合には、地道に単語を覚えるよりも小手先のテクニックや攻略法を学んだ方が効果が高いですね。たとえ本番が半年先だとしても、会話力が問われないので自分が使える表現を会話用に暗記する事などもしないと思われます。

もちろん留学先を卒業する、志望校に合格する、TOIECで高得点を取るといった事はとても大事な事だと思います。事実僕は浪人していますし、学部の成績もそんなに高くないです。しかし上に言ったように、目に前にある目標だけを達成しようと考えがむしゃらに頑張ると、いつまでたっても一定以上の英語力が身につかない可能性が出てきます。10年先の自分の英語力にどれがけ貢献するかを考えて行動することも大事だと思います。

文系大学院のリーディングの分量の検証

僕が以前在籍した英語圏での修士課程で必ず読め言われていたのは平均で一週間に論文6本でした。

 

各論文の分量はだいたい20-30ページ前後かと思います。この他に追加で毎週20本の論文から2,3本選び読むように勧められていました。

週の合計授業時間は7時間であって、それ以外は一日中ほぼずっとリーディングをしていました。一日に重めの論文を一本読む、というのが基本的な流れでした。

 

なんでこんな記事を書くかというと、たまにブログや体験記で、「毎週10冊近い本を読む必要があってほんとにもう大変でした!」などという記事をネットで目にすることがあり、それは間違いではないかと思ったからです。

 

まず一週間で学術書を丸まる10冊読んでこいなんて事はネイティブでも不可能です。正確にはおそらく各本の一章約2、30ページだけを読めという事だろうと思います。

必須リーディングと、出来たら読めというRecommended Readingを区別つけてないのかもしれません。

 

たまたま米国の文系大学院で実際に教えている教授が生徒たちに課すリーディングの量を話している記事を見つけたので紹介しようと思います。昨日書いたトゥキディデス「戦史」を読む(その1)という記事で名前を出した、米国海軍大学のジェームス・ホームズ教授がトゥキディデスを大学院で教える理由を語ったこの記事で以下のように話しています。

 

「(第二次大戦時に海軍制服軍人の最高位であった合衆国艦隊司令長官兼海軍作戦部長アーネスト・キングは1932年、当時44歳で海軍大学校高級過程で学んでいた時に)一週間で本一冊に相当する分量のリーディングを行った。現在の生徒たちも同等の事を行うべきだ。

...

もし生徒たちが一週間に一冊に相当するリーディングを行わない場合、それは彼らが十分な教育を受けていないことを意味する。

ジョージタウン大学、コロンビア大学、SIAS、フレッチャースクールの大学院修士課程で戦略や安全保障を学ぶ背広組の国家安全保障のプロフェッショナルや軍からそこに派遣された学生たちは一週間に一冊程度のリーディングや論文執筆をおこなえる能力がある。」

 

ジョージタウンタウン大学、SIAS、フレッチャー、ジョージワシントン大学アメリカの国際関係分野での名門です。これらで実際に学んでいる方々にリーディング負担を聞いたことがありますが、大体毎週200ページ、きつい時で本一冊分ほど一週間に読まされるようです。

 

次に検証として、KCL戦争学部のシラバスを読んで一週間のリーディングがどれくらいか見てみようと思います。

ここでは「東アジアの安全保障」という修士課程の授業を見てみましょう。KCLでは各学期に3つの授業を取る仕組みなので単純にこの授業のリーディングの三倍の勉強量だと考えられます。「論文1本=学術書の中の1章分」くらいの負担量と考えてください。以下がこの授業の必須リーディング分量です。

 

第1週

論文1本

本3章

 

第2週

論文3本

本5章

 

第3週

論文1本

本5章

 

第4週

論文2本

本3章

 

第5週

論文2本

本1章

 

という事は、一つの授業につき毎週論文5本ほど読む事を要求されるみたいですね。これに加えて読むのおススメと言うRecommended Readingとadditional readingがそれぞれ毎週10本くらいあるが、これは正直関連文献として学生のリサーチやテスト勉強時の助けとして紹介されている意味合いが強いです。その時の授業までに読んでこなくても問題ありません。

このような授業を一学期に3つ取るので×3として、合計で毎週論文15本ほどの必須リーディングを要求されるわけですね。論文平均で25ページとすると400ページで、約本1冊分にあたります。毎日英語で論文2本、というのはかなりつらいと思います。

国際関係学や国際政治分野で修士課程に留学される日本人の方は大体が初めての留学、または学部時に一年間交換留学を経験済みだと思います。おそらくかなり限界に近い勉強量になると思います。

留学中にどれくらい英語が伸びたかの記録

留学して何年でどれくらい英語が伸びたのか書いていきます。それだけですので興味ない人は飛ばしてください。 

 

 

まず留学前の自分の英語の実力を。

九州の田舎町で高校卒業まで育つ。外国人は周りにはゼロでした。

中学からで英語を開始。落ちこぼれであり、高校受験では依然として苦手科目でした。

高校では全科目総合で学年でも最下位に近かったのですが、高2の初めにせめて英語だけでも得意科目にしようと思い猛勉強開始。大学受験時には一番の得意科目に。

国立大学に進学。

入学後にやはり海外大学に行きたいと思いTOEFL受験。大学受験とはレベルが違うと実感しました。点数は68点。

大学入学半年後に英語圏の大学に転校。

 

留学1年目

ファウンデーションコース(大学準備課程)で他の留学生たちと学ぶ。現地のネイティブの英語は本当に全く分からなかったのだがそれよりも絶望したのは自分と同い年の他国からの留学生がみな流暢な英語を話していたこと。初日からみんな冗談とか言ったりして和気あいあいとしているのだが自分は何も話せないしそもそも先生や同級生が言っている事の一つも分かりません。

最初の英語の授業で二人一組になって2分間自己紹介しろと言われ、同じく英語の不自由な韓国人とペアに、「Where are you from?」とお互いに言って年齢を聞いた後はつらい沈黙の2分間。ほんとに何も話せませんでした。

留学二か月後のIELTSではOverall 6.5獲得。

 

三か月で先生の外国人向けのゆーっくりした英語は聞き取れるように。しかしその先生が他の留学生やネイティブの人たちに話し始めた途端理解不能

留学開始から半年後のIELTSでOverall 8.0取得。

しかしニュースキャスターの話している英語は処理速度が追い付かず理解が5割以下。スタバの店員の英語はもっと分かりません。

授業中などは恥や屈辱的なことの連続。3人1組であるテーマを10分間話し合ってそのあと発表するということが授業中にあり、僕の他の二人は開始10秒で僕が彼らの英語を全く理解できないと悟ると、その後の9分50秒は僕の方を見向きもすることなく二人で議論していました。

こんな事が毎日あり、英語が出来ないと対等に接してすら貰えないと強く感じました。無関心というのがより正確な表現だと思います。英語が話せないアジア人男性というのは話しかける動機に乏しいです。考えてみれば、話しても何も通じず冗談1つ言えない奴にかまってあげたり仲間に入れてあげる人たちってのはよほどのお人よしかもしれません。この様な対応は当然なのですが当時の僕にとってはなかなか辛かった。

 

また英語のリーディングを鍛えるためにThe Economicstを読んでみました。精読して分からない単語を全て英英辞典で調べるという勉強をしてみると、1ページに4時間かかってしまった。これを留学1年目の終わりまで毎日4-5時間ほど続ける。

 

留学2年目

映画は全く分かりません。最初の週に留学生たちとジェームズボンドの最新の映画を見ても話の筋もわからないのであまり面白くない。

ネイティブが僕に向けてすごく手加減して話す英語は8割くらいわかるよう。マレーシアやシンガポールから来た留学生の英語はほぼ分かるようになりました。

しかし同年代のネイティブ人同士が普通に話す英語はほぼ理解不能。今も覚えているのが、留学2年目の終わりごろバスの前の席に座った現地学生の英語を真後ろで必死に聞いていた時の事。おそらく英語だなーということが音から分かりますが、意味は全く分かりませんでした。

授業の課題リーディングでは1本30ページの論文をしっかり理解して分からない単語を調べていると、その1本を消化するだけで土日がつぶれてしまいました。多分1本につき15時間くらいかかっていました。単語力や読解力向上の為に知らない単語や表現を全て調べていましたが、これでは肝心の学問の方で落ちこぼれてしまうと悟りました。

また普段から読む新聞やネットでのニュース等は全て英語に変更。Wikipediaも英語で読むようにしました。これらは現在までも続けています。ただ当時はニューヨークタイムズ等の記事は辞書が無いと太刀打ちできませんでした。各行に知らない単語が続出しました。

ライティングは3000字のエッセイを書くのが本当につらく、思ったことが英語では全く表現できません。今から考えると、これまでに読み込んだ英語の量が圧倒的に不足していたのが原因だと思います。

 

留学3年目

英語力の伸びを少しずつ感じ始める。一番大きかったのが朝晩食事付きのほぼ現地人だけの寮に住んだこと。ハリーポッターで寮生たちが一緒にご飯食べるシーンがありますが毎日あんな感じのテーブルに皆座り、仲良くなった現地の寮の友達達と毎日晩御飯のテーブルで1、2時間程会話をしていました。95%程は意味も分からず黙って聞いていただけですが。

こんな生活を半年ほど続けるうちに最初は理解不能だった現地の若者がお互いに会話する時に使う手加減なしの英語がほんの少しずつだけれど分かるようになっていきました。しかしこれはいつも話している仲のいい人たちの英語に限った話です。

ネイティブ2-3人と自分という状況で会話していると、彼らの言っていることを精一杯理解しようとしていて、何か言いたいことを考えていると会話は数秒後にははるか先に行ってしまっていることが多かったです。たまに自分から一言や二言何か言う、というような情けない状況が続きました。

 

同時に初めてネイティブの大人向けの小説に挑戦しました。John le Carreという有名小説家の「A Delicate Truth」というもので、第一ページで知らない単語が続出する。これも知らない単語は全て英英辞典で調べるという方法を行い2ページに約1時間消費するが夏休み全て使って読破。

 

留学4年目

遂にネイティブ人同士が話す砕けた会話が時々理解できるように。この一年は三年目仲良くなった人たちと暮らしていて毎日会話して暮らしていたのが大きかったです。お酒を飲んだりリビングでくだらない話をしていたのが実は一番英語力、特に会話力とリスニング力の伸びに貢献しました。

 

ディスカッションでネイティブが複雑な事や学術的な事を爆速でまくしたてるのはまだ理解できません。また、普通のディスカッション中に流れを追うのは出来るのですがそれを聞きながら批判的に考える、速攻で反論を考えて長文で言い返す、等といった事は出来ません。

 

5年目

ネイティブ同士の会話が多くの場合分かるようになり、会話に入っていけるように。ただし積極的に話をリードするわけではなく、たまに自分からも発言するくらいです。

何か言いたいときに頭の中で英文を組み立てるという作業はあまり必要なくなり、何か言いたいことは自然に英語で浮かぶようもなりました。ある程度複雑な文章も英語で考え、自分で話しながらその先に言うことを頭で考えるという日本語でやっている事が出来るようになってきました。

 

英語力を証明する必要がありTOEICを受け、何とか990点を取りました。

 

6年目

ニューヨークの研究所で一年間インターンする機会を頂き仕事の場の英語を覚え始める。

自分の書いた英語を添削してもらうと不自然な表現だ、こうは言わない、等と散々言われる毎日で、いまだに正しいネイティブらしい英語は全く書けません。

また毎日4時間ほどニューヨークタイムズ紙、ワシントンポスト紙、エコノミスト紙、その他数紙を読んで幾つかの記事を要約するという仕事をやってました。読むスピードがここでも少し上がりました。

 

映画やコメディーで早口なところはたまに分からないところもあるが、大体字幕なしで楽しめるようになりました。例として、BBCのシャーロックは細かいところ以外は分かります。ただ主演の英語はめっちゃ速いのでもし分からなくても気にする必要はないと思います。イギリス人も普通はあんなに早く話しません。あれは役柄としてあのように話してる所もあります。

ニュースなどは日本語を聞いてるのと大体同じ感覚でわかると思います。

5年前に精読で1ページに4時間ほどかかっていたThe Economicstは今では同じ方法で1ページ8分くらい。知らない単語を無視して読めばゆっくりで約3分。ちなみに本格的な小説はまだまだ難しく、各ページに知らない単語は続出します。ダン・ブラウンのロストシンボルは知らない単語を全て飛ばして速読しても16時間かかりました。

 

 

皆の想像する英語がペラペラ、というのはネイティブの手加減なしの英語を理解しある程度の速度でまとまった量の英語を話す、という事だと思ういます。となると1、2年でそこまで達するのは難しいと思います。

僕は6年目辺りで少しずつその様な事が出来るようになってきたかもしれないという気持ちが芽生えてきました。ですがそれでも毎日力不足を実感します。

 

英語が出来ると自信を持って言えるレベルにはまだ全然達していないと思います。書くときなどは冠詞の有無などいつも悩み、自分の表現が自然かどうかもわかりません。その都度ネットで類似の英文を検索して確認しています。